和81号

 

「和」 5月号(2008年5月発行)
 
~在宅患者さん達とお花見をしました~

 

 

 4月5日土曜日。絶好のお花見日和の午後、逢川公園にて、長尾クリニック主催のお花見会が開催されました。在宅患者さんとご家族、約40名と一緒に、つかの間の楽しいひと時を過ごしました。外出は退院後初めてとか、今年になって初めてという患者さんもおられ、カメラマンも依頼し沢山の記念撮影をしました。18歳から101歳までの在宅患者さんとのお花見は、私にとっても初体験で、念願が叶いました。お互いに、普段とは違う不思議な時間でした。2名のドライバーさんが、ピストン運転で送迎をして実現しました。看護師さんにゴスペル歌手がいるので、桜の下で「上を向いて歩こう」「川の流れのように」など数曲歌って頂きました。つられて、飛び入りの患者さんの歌もあり、和やかな花見でした。来年も、さらに充実した企画で、花見をしますので、いまから楽しみにして下さい。
 
[4月からの医療制度]
さて4月から、後期高齢者医療制度という大変問題のある制度に変わり、日本中の医療機関は大混乱しています。この制度はおかしな点が多く、マスコミや政治家さんに廃止を懸命にはたらききかけています。
いくら制度が変わっても、医療の原点は、患者さんと医師の信頼関係と医師のスキルであることは不変です。5月からはさらに医師が1人入職し、常勤6名、非常勤4人態勢となります。地域の皆さんに信頼されるかかりつけ医でありたいと願い、精進します。
 
エッセイ
 「医療崩壊」ではなく「医療破壊」、「たらい回し」ではなく「受け入れ不能」
 
毎日、新聞やラジオで医療崩壊の現場が報道されています。皆さん、どうしてかと不思議に思われているでしょう。しかし、医療が勝手に崩壊、自滅したのでは決してなく、政治とマスコミに破壊されたのです。正しくは「医療破壊」なのです。善意の過失であっても、有無を言わさず医者を犯罪者扱いするマスコミ、道路にはお金を使うが医療や福祉にはお金を削り続けてきた政治。それらのツケが、昨年から一挙にきました。年金問題、ガソリン問題、財政問題・・・さまざまな問題が山積みですが、誰が考えてもまず「道路より医療」でしょう。
あの戦争で命をかけて国の為に働いた先輩方に、今回の姥捨て山のような政策は絶対に間違っています。いくら財政が逼迫しているとは言え、医療・福祉に投資するお金は、日本の国にはまだあります。要するに、優先順位が違うのです。
あと、「たらい回し」という言葉も新聞でよく使われます。救急車がすぐに来てくれても、受け入れ先病院を見つけるのに1時間以上かかることは今時、普通です。私も、日々苦労しています。いろんな病院に電話して当直医と話をしますが、死にそうな声で「もう無理です」「満床です」「さっきから、もう何人も受け入れました」など言って、断られます。これは「受け入れ拒否」ではありません。受けてあげたいけども、どうすることもできないというのが本当のところで、正しくは「受け入れ不能」なのです。皆さん、マスコミに教えてあげて下さい。これも、医師不足、病院不足の政策が原因です。
病院の勤務医がどんどん病院を逃げ出しています。あの映画「タイタニック号」を連想させます。私も、かつては悲惨な勤務医でした。少ない医師数で、家に帰る時間も寝る時間もなく働き続け、患者さんより先に過労死するのではと毎日思っていました。だから、船から飛び降りる勤務医の気持ちは痛いほどよく分かります。しかし医療制度は、厳しくなる一方で、開業医にも大変厳しい制度となっています。だから、「病院崩壊」の次は、「診療所崩壊」とも言われています。実際、私の回りにも経営不振などで開業医を辞めた医師も何人かいます。海に飛び降りても「凍死」するかもしれない覚悟が必要です。やっぱり「タイタニック号」なのです。
紳介の番組「行列のできる・・・」の影響なのか、すぐに「訴えてやる」となる傾向が今の医療です。そうすると、医者も訴えられたくないので、「右に行くか左に行くか自分で決めて下さい」とか「検査するかどうかは自分で決めてください」という風に、どうしても訴訟回避を前提とした診療になる傾向になります。「本当は右です」「検査は不要でしょう」と本音では言いたくても、言えないケースが増えてきます。なにより訴訟リスクの高い、産科、小児科、外科に入局する若い医師が極端に少なくなっています。高い給料を提示し、まるで天然記念物を保護するかのように絶滅寸前の産科医を確保しようとする自治体が報道されていますが、中堅クラスの医師がお金で動くと思ったら大間違いです。医師は、やはり遣り甲斐のある働きやすい職場を求めているのです。医療問題は、落ち着いて根本から考え直さなくてはいけません。
一部では、医療崩壊より日本国の崩壊という声も上がっています。しかし、日銀総裁が不在でも、何事もなく経済が回っている国、日本は、世界一民主主義が機能している国とも言われています(笑)。そう簡単には壊れないでしょう。平成20年は、昭和20年の終戦になぞらえて、「医療破壊の終わる年」とも言われています。今年後半から来年あたりから、終戦後の復興のように医療システムの再生が始まるそうです。この1年で、医者や市民の医療の価値観は劇的に変化します。これまでの、細分化された治療医学から、総合的に診る予防医学、さらに病院医療中心から家庭医療中心に大きく変わりそうです。これをパラダイムシフトと言います。今、パラダイムシフト前夜の混乱の中にいます。
どんな時代になっても、医療がなくなることはありません。おそらく近いうちに行われるであろう国政選挙では、医療問題が争点になる予感がします。命を守ってくれる政治家は誰なのか、今からよく見ておく必要があります。(私が立候補するのではありません。念のため。)

Top